SHIZQの職人育成

立ち上げ当初、SHIZQの器を削れる職人はたった一人。
私たち神山しずくプロジェクトが挑戦しているのは、山や川、そして人の意識を変えていくこと。
510年で終わってしまっては意味がない。続けていくためには、次の担い手が必要。

そんな課題に焦る中、「しずくの職人になりたい!」と2017年春、職人候補として一人の男性が大阪から神山町へ移住してきました。


地域の資源を生かす。それは、技術を守り、人を育て、繋いでいくこと。

小さな地場産業をつくっていく。子どもたちの未来のためにと始めた活動は、たくさんの想いを乗せて、まるでひとつの生き物のように、少しずつ育っています。

 その中核を担う、職人の育成。

私たちのスタイルを表現する、難しくも最高のチャレンジです。

はじまりは大工仕事

神山に来て最初の仕事は、しずくの木工所「しずくラボ」の大工作業。当時、職人の後継者育成の必要性は感じながらも、まったくの着手前。募集できるような余裕も、受入れ環境もありません。

それでも、自らの手で私たちを探し出してくれた彼。

きっと私たちにとって大事な人物になるだろうという勘だけを頼りに「自分の職場づくりからやれるか?」と大工さんのアシスタントにつかせました。
半年間、木工ろくろに関わるものには一切触ることなく、神山でのものづくりの土台から築きました。

大工の次は、鍛冶屋


移住してから9ヶ月後、ようやく師匠の工房で本格的に学び始めました。
目指すは木地師(きじし)と呼ばれる、木工ろくろ職人。ですが、まだ木を削ることはできません。
まずは、道具となる刃物づくりから。

杉は柔らかく一般的な刃物では削れないため、より硬い素材で、杉を削れる刃物を職人自ら製作します。
日がな一日打ち続け、磨き続けの作業から基礎を体で覚えていきました。

 

初めて削った小さなコマ

移住して1年が経つ頃。彼が嬉しそうに手渡してくれたのは、たった3cmのコマでした。木工ろくろの特性を生かせる、練習にはうってつけのもの。

この小さなコマを持って現れた彼の顔には、この1年の苦労も下積みの歯痒さもありません。ただただ、昨日より今日、今日より明日、自身が成長している姿を真っ直ぐに信じる強さと、選んだ道を楽しむ喜び。

みんなに支えられて作ることが叶ったそのコマから、彼の職人としての道がはじまったのです。

 

どれひとつとっても同じものはない


その後、ぐい呑み、ロックグラス、カップ、タンブラー、汁椀、お皿、、と段階を踏みながら製作数を重ねていきます。時にはつまずき、悩みながらも、毎日コツコツ経験を積んでいきます。

杉の木も人と同じで、生きてきた環境や年月によって個性がでてくるもの。
木目が粗かったり、節があったり、油分が多かったりとひとつの木ですら箇所によって千差万別。
実は目に見えてわかることよりも、削ってみてわかることの方が多いほど。

職人は木に触れる刃先の感覚でそれを捉えながら、加減を調整し成形、それぞれがもつ個性を最大限に引き出していきます。

 




自分の倍以上を生きた木のいのちを頂き、新たないのちを吹き込んでいく。
ふたつと無い木の個性を感じ取れる感覚を研ぎ澄まし、そのための環境を整える。

はたから見れば同じ作業の繰り返し。

でも実は、同じ作業も同じ時間も存在しない、その瞬間がただ唯一のものなのです。そこに真摯に向き合うことこそが、職人を磨き上げていくのです。
 

近道はない。不器用で遠回りにも見える私たちのやり方は、ろくろに倣い、ブレることなく今日もまっすぐに進んでいきます。その先の光を信じて。